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静岡地方裁判所富士支部 昭和59年(フ)39号 決定 1988年6月15日

提供者(破産者)

渡辺産業株式会社

右代表者代表取締役

渡辺富士雄

主文

本件強制和議の提供を棄却する。

理由

一破産者が昭和六〇年七月二三日提供した強制和議の条件は別紙記載のとおりである。

二そこで、右提供について審按するに、本件記録によれば、次の事実が認められる。すなわち、

1  破産者は、昭和四二年一二月、砂利類の採集及び販売を目的として設立された株式会社で、当初は富士川河川敷内の川砂利を採集し販売していたが、その後、川砂利の採集の採算が合わなくなったのでそれを中止する一方、従前より取引のあった静甲工業株式会社から砕石を購入してこれを精製し、製品を販売していたが、多額の設備投資や販売の不振から資金繰りにいき詰まり、昭和五八年一〇月二〇日、同年一一月二一日に不渡手形を出し、銀行取引停止処分を受けて倒産し、昭和六〇年三月八日午前一〇時、破産宣告を受けた。

2  破産会社に対する破産債権の額は、これまでに債権放棄された分や債権調査期日において異議の申し出がなされたのに破産債権確定訴訟を提起していないものを除外し、かつ、現在も訴訟中の未確定債権八五五万二六六一円及び財団債権四八〇万一二四五円(昭和六〇年九月一二日現在の源泉所得税、固定資産税等で、延滞金などを含み、現在までに全く弁済されていないので、延滞金の増加が確実視される。)を別にし、現在の確定した破産債権額で六億二五八七万九五三六円(ただし、別除権者の被担保債権額を含む。)である。

3  破産会社の現在所有に属している不動産は別紙物件目録(一)ないし(三)記載の物件(以下「本件(一)ないし(三)の物件」という。ただし、建物二棟はいずれも未登記)で破産会社の事業場であったところであるが、右(一)、(二)の物件については債権者(根抵当権者)静岡県信用保証協会の申立による当庁昭和六二年(ケ)第七八号不動産競売事件が、右(三)、(四)、(七)ないし(一〇)の物件については債権者(根抵当権者)静岡県信用保証協会の申立による当庁昭和六二年(ケ)第八〇号不動産競売事件が進行中であり(なお、右(五)、(六)の物件については債権者静甲工業株式会社申立の強制競売事件により差押えされたが、破産宣告により失効となり、また右(二)、(三)の物件は債権者大石信雄の譲渡担保の目的になっている。)、早晩、破産財団から離脱する可能性が大きい。

4  本件(一)ないし(一〇)の物件の具体的な時価は、評価人による鑑定評価が未了のため不詳であるが、右物件に対し設定されている根抵当権の極度額合計は二億四七二〇万円であり、静岡県信用保証協会外四名の根抵当権者の有する破産債権額の合計は右極度額合計を超えており、右物件の価額は右根抵当権者の被担保債権を完済するに足りる見込みはない(なお、右物件の昭和六二年度の固定資産課税標準額は合計四七万三五六八円にすぎなく、前記各競売事件において、剰余金の生ずる見込みがないことは破産会社代表取締役渡辺富士雄自身も自認している。)。

5  破産会社が破産宣告当時使用していた機械類、車両等の動産の評価額は合計一八一六万三〇〇〇円であるが、そのほとんどは債権者協立建機株式会社(その確定破産債権額一億〇二六七万五八八五円)の所有権留保あるいは債権者大石信雄(その確定破産債権額五八〇〇万円)及び債権者株式会社東和商事(その確定破産債権額一億三二五七万六九九四円)の譲渡担保の目的になっており、破産財団に組み入れられるべき物件はほとんどない。

また、破産会社の売掛金として田村徳蔵に対する五三七万五四八八円の債権があったが、右田村は破産(静岡地方裁判所沼津支部昭和五九年(フ)第二号)となり、三五万六二〇二円の配当がなされたにとどまり、その余は回収不能であり、破産会社には他に見るべき預金、製品はこれまでの破産管財人の調査によっては発見されていない。

6  破産会社の工場機械設備は破産宣告少し前の昭和六〇年一月以降、全く使用されず、そのまま放置されており(なお、もといた従業員一三名は、昭和五八年一一月三〇日付で全員解雇された。)、事業を再開するためには、運転資金はもとより、多額の設備資金を必要とする(破産会社代表取締役渡辺富士雄は、前記財団債権の支払分を含め、三〇〇〇万円ないし四〇〇〇万円位の資金が必要であることを自認している。)ところ、破産会社代表取締役渡辺富士雄は、実兄の渡辺弘から資金を借り入れるつもりである旨述べるが、右渡辺弘の貸付の意思を裏付ける資料はなく、確実性に乏しい。

7  破産会社に対して従前原石を供給していた静甲工業株式会社は今後破産会社に対して原石を供給する意思のないことを表明しており、前記渡辺富士雄は共栄石産株式会社から原石供給を受けることになっている旨述べるが、同会社の原石提供の承諾書は提出されておらず、同会社の意思は明らかでなく、右供述には確たる裏付けがない。

8  仮に強制和議が債権者集会において可決され、認可の決定が確定したときには、破産管財人において財団債権及び優先破産債権を弁済する責任が生ずる(破産法三二三条)が、前記財団債権四八〇万一二四五円の弁済については、債権者大石信男がその支払にあてるため破産会社に代り二〇〇万円を当庁に予納しているほか、その弁済にあてられる破産財団は組成されておらず、提供者(破産者)もその提供をしていないので、右弁済の見込みがないといわざるをえない状況である。

9  現在の破産財団の実情では破産債権者に対する配当の見込みはない状態であり、そのため、破産者が強制和議の提供をするに先き立ち私的に開いた大多数の債権者が出席した債権者の集会では、別紙強制和議の条件による強制和議を望む声が多く、相当数の債権者が昭和六〇年七月頃の日付で、右条件による強制和議に同意する旨の書面を作成し、これが提供者より破産裁判所に提出されている(ただし、前記各競売、強制競売事件の申立債権者の同意書はない。)ところであり、右は破産配当が望めないので強制和議により多少でも債権の弁済を受けたいとの動機に基づくものであるが、強制和議の提供後、現在まで相当期間経過した事情について、前記渡辺富士雄は、「ここ数年間は大不況に見舞われ、わけても建設業界の不況は甚だしく、このあおりを受けて砕石業界の経営は特に厳しいものがあり、債権者より現状で破産会社が営業を再開しても利益を得られる見通しはないのであり、債権者が破産会社に協力した場合、さらに債権者は損失を蒙ること明白であるから、暫く情勢の変化を見守るべき旨の勧告を受けている実情である。」旨申し述べている(同人作成の昭和六一年九月二六日付上申書)ところである。

10  提供者(破産者)の強制和議条件の履行の見込みについて、破産管財人は、「右和議条件の履行の見込みはないか、少くともその可能性は極めて低いものと思料する。」との意見を述べている。

そうして、右認定事実によれば、破産会社所有不動産の大半を占める本件(一)ないし(四)、(七)ないし(一〇)の物件については別除権の行使に基づく前記各競売手続が進行中であって、競売による売却に至れば原石の精製販売事業はほとんど不可能になるし、仮に右競売申立の別除権者が本件強制和議の条件にしたがったとしても、免除される七割を除き、破産会社が支払うべき残三割の破産債権額は一億八七七六万円余に達し、一年間の据置後、六か年間で按分して支払うとして毎年三一二九万円位の支払を要することになるが、右認定の破産財団の現状等に照らせば、破産会社提供の本件強制和議条件の履行の見込みは全くないか、又はその可能性が極めて乏しいものであって、強制和議のためにする債権者集会を仮に開催したとしても、その決議までに右事情が改善される可能性もないものであると認められ、右事実によれば、本件強制和議の条件は、債権者の一般の利益に反するものであって、しかも、強制和議のためにする債権者集会の決議までにそれが改められる事情もないものというべきである。

しかして、強制和議の条件が債権者の一般の利益に反することは、和議不認可の事由とされているにすぎない(破産法三一〇条一項四号)が、右認定のように債権者の一般の利益に反する強制和議の条件が強制和議のためにする債権者集会の決議までに債権者に有利に変更される見込みがないときには、さらに強制和議のための手続を進めることは、徒らに破産手続の進行を遅延せしめることになるだけであるから、強制和議のためにする債権者集会の開催をまつまでもなく、その提供は理由がないものと解するのが相当である。

三以上によれば、本件強制和議の提供は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官榎本克巳)

別紙強制和議の条件

一 総破産債権者(一般の優先権を有する者を除く)は破産宣告後の利息、損害金を免除すること

二 総破産債権者は破産債権の七割を免除すること

三 破産者は破産債権の三割を次の方法にて支払うこと

(一) 強制和議認可確定後一年間据置くこと

(二) 六箇年に分割して据置期間の最終応当日に各五分を支払うこと

別紙物件目録

(一) 静岡県富士郡芝川町下稲子字東村山三〇五番一

宅地 1,667.23平方メートル

(二) 同所三〇七番一

宅地 261.91平方メートル

(三) 同所字逆川一、一〇二番一

雑種地 七八七平方メートル

(四) 同所一、一〇三番三

雑種地 八五平方メートル

(五) 同所字砂熊山二四三番一

田 七〇七平方メートル

(六) 同所二四三番二

田 二〇八平方メートル

(七) 同所二四五番

田 一、〇九〇平方メートル

(八) 同所二四七番

田 六七四平方メートル

(九) 同所二四八番

田 二〇八平方メートル

(一〇) 同所二四九番二

雑種地 三五七平方メートル

(一一) 静岡県富士郡芝川町下稲子字東村山三〇六番地

木造トタン板葺平家建居宅兼事務所

床面積 69.41平方メートル

(一二) 同所同番地

軽量鉄骨造平家建

床面積 59.50平方メートル

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